転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


209 ルディーン君の秘密と頭を抱えるお爺さん司祭様



 わしが自己紹介すると、目の前の女性は驚愕の表情を浮かべおった。

 だが、それ程驚く事かのう? グランリルは帝国直轄領なのだから、そこに派遣される神官は皆、何かしらの役職から引退した者たちなのだから、わしがその任についておってもおかしくは無いだろうに。

「はっ伯爵! あなたは知っておられたのですか!?」

「あっいや、わしも依頼した時点では知らんかった。知ったのは、どのような人物にポーションの実験を頼んだのかと調べさせてからじゃ」

 そんな事を考えておったら、ギルドマスターがフランセン老を怒鳴りつけおった。

 いくら身を引いたとは言え、こやつは元伯爵。貴族だからいくら親しくとも平民ではこの様な事はすまい。

 と言う事はこの女性も貴族と言う事か。

 そしてギルドマスターは、額に手を当てながら首を振り、大きなため息をついてからわしの方へと向き直ってカーテシーをする。

「イーノックカウ錬金術ギルドのマスター、クリスティーナ・ミル・ぺトラ・バーリマンです。知らぬ事とは言え、ハンバー大司教様のような高位の神官様にポーションの実証実験を手伝っていただいているのに今までご挨拶にも窺わず、まことに申し訳ありませんでした」

「いやいや、構わぬよ。わしもそのおかげでこれ、この通りとうに諦めておった髪が生えてきてくれたからのう。それに先ほども言ったであろう。わしはすでに司教から身を引き、今では村の司祭の身だ。わざわざ挨拶になど来る必要など無い」

「そう言っていただけると、心が軽くなりますわ」

 心底ホッとしたような顔をしておるのう。

 わしからするとそれほど気にする事ではないと思うのだが、こうして見るとやはり神殿と言うのは貴族からも気を許せぬ存在と見られているようだな。

 困った物だ。本来は広く神の御心を伝え、人々に安らぎを与えねばならぬというのに。

 その神殿の高位神官の顔色を窺わなければならないという現状はなんとも頭が痛いことだ。

 だが、まぁそれも仕方が無いことかもしれんのう。怪我の治療や使者の蘇生、それにこの頃はこの様な大都市ではもはや必要不可欠ともいえる水を浄化をする魔道具まで神殿が独占している状況だからのう。

 王族とて、そんな神殿に強くは出れないのだから、貴族がこの様な様子でも仕方が無いか。

「ところでフランセン老」

「その様な呼び方はやめぬか。ここは城でも大神殿でも無いのじゃから、わしも昔のようにラファエルと呼ぶから、おぬしも気楽な呼び方をせい」

「そうか。ではわしも昔のようにヴァルトと呼ばせてもらうとしようか」

 今では共に歳を取ったが、このように昔の呼び方をすると兄やら若い頃に戻ったような気がするから不思議なものだな。

「して、ヴァルトよ。名からすると、ギルドマスターはイーノックカウの財務を扱う子爵家のものなのかな?」

「うむ。じゃが貴族と言う地位は残っておるが、すでに子爵位の継承権利は放棄しておるから、さほど気にする必要は無い」

 なるほど。

 ギルドマスターが貴族と知って、髪の毛を再生するポーションの研究の手伝いをしたのはちと不味かったかと思ったが、ヴァルトの口調からすると大丈夫なようだな。

「そして当然ギルマスも、ルディーン君を貴族の世界に引き込もうな度とは考えておらんから、安心せい」

「おぬしがそう言うのであれば信用しよう。なにせ物が物だからな」

 肌が若返るポーションの時も驚いたが、もう一つのポーションが髪の毛を再生させる力があると聞いた時は、わしも驚きと心配のあまり胃が痛くなったからのう。

 これ程のポーションを僅か8歳で作り出すほどの才能だ。

 貴族どもが知れば何としても手に入れたいと考えるだろうとわしは思っておったが、しかしヴァルトと彼が心配ないと太鼓判を押すギルドマスターがこのポーションを管理をしておるのであれば、心配はなかろうて。

 と言う訳で、わしは安心してポーションの効果のほどを見せることができた。

「ほう。あれほど輝いておった頭が、今では見違えるようじゃのう」

「うるさい。輝いておったは余計だ。しかし、わしもまさかこれほどの効果があるとは、最初に話を聞いたときには思わなかったぞ」

「いやいや、それはわしらも同じじゃ。髪が生えて来るじゃろうとは思っておったが、禿げ上がった頭から、まさかここまでしっかりとした髪が生えて来るとは流石に思わなんだ」

 まったく。輝いていたとか禿げ上がっておったとか、こやつはわしを怒らせるためにわざわざこの様な事を口にしているのではあるまいな?

 まぁ、例えそうだとしても事実なのだから、反論はできぬが。

「それに伯爵。普通よりも伸びる速度も速いのではないですか?」

「うむ。それはわしも感じておった。肌のポーションもそうじゃったが、これ程の効果が見られるとなると、やはりこのポーションもそのまま世に出す訳にはいかぬと言う事じゃろうな」

 わしの頭を見ながら話し合うヴァルトとギルドマスター。

 その二人の会話を聞いて、わしはある引っ掛かりを受けたのでその疑問を口にする。

「そのまま出せぬとはどう言う意味だ? お前たちはこのポーションを世に出す為に実験しているのであろう?」

「確かにそのつもりなのじゃが、今の状況では流石に世に出す訳にはいかぬのじゃよ」

「何故だ? これこの通り実験は成功しておるし、今のところ副作用も出てはおらん。それに聞く所によると材料も今までは捨てられていたセリアナの実の果肉だというでは無いか。材料が手に入りにくくて数が作れないというのであれば争いにもなるであろうが、それならば何の問題も無いように思えるが」

 確かにこれが世に出れば大変な騒ぎになるだろうし、数がなければそれこそ争いごとが起こるやもしれん。

 だがそれは発表する前にある程度の数をそろえておけば避けられる話だ。

 それだけに、何故ヴァルトたちがこの様な考えでいるのか、わしには解らなかった。

 しかし、そんなわしの考えはヴァルトの次の言葉で覆される事になる。

「それがのぉ。現状ではこのポーションも、そしてもう一つの肌用のポーションもルディーン君しか作り出すことができておらんのじゃよ」

「それはどう言う事だ? おぬしの腕ならば作り方がわかっておるポーションなど、簡単に作り出せるであろうか」

「それがのぉ。どうやらこのポーションは特殊なスキルが無いと作り出すのが物凄く困難なようなのじゃよ」

「特殊なスキル? おぬしは、そんな物をルディーン君が持っているというのか?」

「うむ。それは間違いない。何せルディーン君本人から聞いた話じゃからのぉ」

 なんと、ルディーン君は魔法力や柔軟な発想力だけでなく、そんな物まで持っているというのか?

 だが、ポーションを作るのに必要なスキルとはなんだ? そんな物、聞いた事も無いが。

「して、そのスキルと言うのは? わしにはとんと見当がつかぬが」

「おぬしはある意味彼を保護している立場じゃからのぉ。信用しているからこそ話すが、絶対に他言無用じゃぞ」

「それは当然だ。これはあの子の身の安全にかかわる事だからな」

「うむ。それでは話が……そのスキルと言うのは鑑定解析じゃよ」

 はっ? ヴァルトは今何と申した?

 そう思ったわしがヴァルトに目を向けると、こやつは驚くのも無理は無いという顔をしておった。

 と言う事は、わしの聞き間違いと言う訳では無いと言う事か。

「まさか、そんなスキルが出てくるとは、流石にわしも思わなんだ。だがヴァルトよ。ならばそのスキルを持つ斥候の者に錬金術を習得させて作り出させるという方法もあるであろう? これだけの効果があるポーションならば、それだけの価値があるとわしは思うが」

「確かに問題がそこだけならば、金と時間さえかければ何とかなるとわしも思うのじゃが」

 確かに鑑定解析と言うスキルは習得方法が秘匿されており、それを習得している者たちはしっかりと管理されている。

 だが、このーノックカウは死の平原から一番近い都市だけに帝国に進言すればそのような斥候を持つ許可くらい降りるとわしは思ったからこの様な意見を言ったのだが……ふむ、ヴァルトの口ぶりからすると、どうやらそれだけではないようだな。

「なんだ、まだ他にも何かあると言うのか?」

「それがのう。どうやらこのポーションは治癒魔力が、それもジョブを発言しているほどの強い魔力が無ければ連金する事が出来ないようなのじゃよ」

 この話を聞いたわしは、軽くうつむきながら両手で頭を抱えるしかなかった。



 流石に二つのポーションをルディーン君しか作れないなんて、普通は思いませんよね。

 それだけにお爺さん司祭様は頭を抱える事になってしまいました。

 そして彼の苦悩はこれで終わりではありません。

 ホント、胃に穴が開かないといいんだけど。あっ、でも病気と違って怪我みたいなものだから、キュアで治せるのかな?


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